paper of the week #27

一般人が一定以上の高地に赴けばいわゆる高山病を発症する場合があります。
NEJM — High-Altitude Illness
NEJM — High-Altitude Pulmonary Edema

ヒマヤラ登山でも,時間をかけて高地順応力を獲得しながら(馴化)、8000m級の頂を目指す訳です。

一方飛行機に乗れば一気にチベットのラサのような高地に到達することが可能です。数時間内では順応力は獲得できないので、到着後高山病とはいかないまでも,身体にはさまざまな形での機能不全があらわれてきます。吸入酸素分圧が確実に低下する訳ですので、肺胞は海抜0mと比較して”低酸素”に暴露され、結果として”低酸素血症”に至ります。高山病の根本原因をこの低酸素血症とする考えもありますが、いまだ確定したことではありません。

高山病は、3000m級の高地では発症する可能性があるといわれていますが、日本の2000m級の高地でも発症します。2000m級は,7000-8000ftにあたりますが,実は航空機の機内は565mm Hgに調整されいてこれは8000ft相当の圧なのだそうです。つまり飛行機の中で乗客が高山病を発症する可能性があるということになります.
紹介する論文
NEJM — Effect of Aircraft-Cabin Altitude on Passenger Discomfort
では、航空機内で乗客に起こる変化を研究する目的で、低圧チャンバー、つまり減圧室でボランティア500人規模の研究を行った結果が報告されています。ボーイング社のバックアップで行われた研究です。ボランティアを対象としていますので日常的に航空機に乗っているような人は研究にはエントリーされていません。

ボランティアは、5群にわけられ、それぞれ650ft (198m, 742 mmHg), 4000ft (1219m, 656mmHg), 6000ft (1829m, 609mmHg), 7000ft (2134m, 586mmHg), 8000ft (2438m, 565mmHg)相当の減圧室に入ります。
午前10時にチャンバーにはいり、次の日の午前6時まで(20時間)チャンバー内で過ごします。
その間、普通に食事をしたり、運動をしたり、また夜になれば寝たりの通常の生活を送りながら、
動脈血酸素飽和度をパルスオキシメーターで測定されEmvironmental Symptoms Questionnaire IV (ESQ-IV)という質問システムで患者に起きる変化が記録されます。
症候は9項目に分けけて、調査し数値化します。

  • AMS-C; acute mountain sickness-cerebral
  • AMS-R; acute mountain sickness-respiratory
  • muscular discomfort
  • exertion
  • fatigue
  • cold stress
  • dstress
  • ear, nose, and throat discomfort
  • alertness

の9項目です。

まずSpO2
4000ft以上では、一時間後の測定点では既に低下しています。8000ftでは、4ポイント程度の低下となります。就寝したら5ポイントの低下になりますが、おそらく有意差はありません。
症候の項目で、高度よる差が明確に認められるのは、呼吸苦、筋肉痛、冷感の項目で7000-8000ftでしか認められないという結果になっています。
解析によれば3-9時間で症候存在が明らかになり、60歳以上、または男性はそれぞれ不快感を感じにくいまた低酸素血症との強相関は認められなかったという結果です。
この研究から”高山病”の発症は、低酸素血症との関連が低いと結論つけています。

航空機で、609mmHg(6000ft)相当の与圧を行えば、低酸素血症の発生率も低くなり、かつ”高山病”の初期症状としての身体的、精神的な不快感の発生も低く抑えることができるのかもしれません。

学生のときに、信州大学で減圧チャンバーに入ったことがあります。鉱山における心電図の変化を記録するためです。5500m相当つまり1/2大気圧まで30程度で到達してしばらくすると視野が狭窄師くらくなり、呼吸は切迫し、心電図のようのパッドを貼るような簡単な作業もできなくなってきます。何とも嫌な気持ちになってくるのですが、それ以上のことはよく覚えていません。部屋の外からは、スピーカーを通じていろんな呼びかけを行ってくれるのですがどうでもいいというか呼びかけに応じた行動ができなくなるのです。あの状態で3時間とか過ごしたら多分高山病になっていたと思います。

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